ブレヒトの教育劇「イエスマン」、それに対する批判的応答の「ノーマン」と改稿版「イエスマン」の3バージョンを、ブレヒトの指示する構成順序を裏切った形で映画化した貴重な教育映画。デジタルの撮影と編集を利用しながら、映像と音声の反復とズレを見事に生み出していく。原作にも存在しないもう一つの「ノーマン」を撮影することなく、未完のまま映画を宙吊りにしていることが、かえって不在の存在についての思考を誘う。
映画美学校フィクション・コース第2期初等科の修了作品。「リズム社」では、労働者がドラムを叩いてリズムの生産をしている。少女・アオシギもドラムを叩くだけの単調な日々を過ごしている。次第にこの単純作業に限界を感じた同僚が辞めていき、不気味な新入りの男・ダイゴは、リズムの生産を中断すべくドラム泥棒を提案するが……。集団の中にいる個人の抵抗という主題を、寓話的な世界観でユーモラスに描いた初々しさ溢れる作品。
映画美学校フィクション・コース第2期生が修了制作直後に余った16mmフィルムをかき集めて、3年がかりで制作した疾走感溢れる短編青春時代劇。黒船の脅威が迫る幕末。土佐の坂本龍馬、長州の高杉晋作と桂小五郎は時代の転換期において、運命の出会いを果たす。短編自主映画とは思えない山道での本格的な殺陣芝居に加え、日頃慣れ親しんだ音声表現とは一線を画す訛りを混えた発話形式、それに遠山智子による撮影が映画の世界観を濃密に作り上げている。
西山洋市と映画美学校フィクション・コース第2期高等科生によるコラボレーション作品。「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺の完全映画化を謳いながらも、物語はロシア語による中間字幕とマルクス兄弟をオマージュしたキャラクター、そして親父ギャグによる言葉の連想によって展開される。西山が提唱する「ワンカット゠ワンシーン」の美学と、ナンセンスで破壊的なユーモアが炸裂する猫狩りの場面、それに桶職人を撮影したドキュメンタリーシーンは必見。
あがた森魚からライブの上演前に上映する目的で撮影の依頼を受けた松村が、2005年夏に札幌から白糠町への北海道ツアーに同行して撮影したドキュメンタリー。撮影から編集まで1ヶ月という期間で制作された今作は、リハーサルやライブの様子に、断片的なテクストや写真が加えられてモンタージュされる。実験性を感じる一方で、あがた森魚との距離を測りながらカメラポジションを探っていたという松村の撮影が生々しく記録されている。
北海道根室。点在する戦争遺跡・トーチカを探しにこの地へやってきた女は、地元へ戻ってきたという男と出会う。互いのトーチカにまつわる記憶を共有するも、二人が抱える孤独は決して交わることがない。トーチカの中に折り畳まれた、銃眼から覗く光景は、やがて果てしない闇に溶けていく。今作が提示する完結することのない「死」の表象は、この映画を見つめる者にとっても、暗がりの中で自らの生を自覚することを誘う鏡となる。
※チラシでは『TOCHKA』の上映素材がBlu-rayと表記されておりますが、正しくはDCPになります。