特集 ポルトガル映画の巨匠たち・上映作品解説

春の劇

春の劇
Acto de Primavera

1963年/91分/カラー/35ミリフィルム
監督・撮影:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ニコラウ・ヌネス・ダ・シルヴァ、エルメリンダ・ピレシュ、マリア・マダレーナ

16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキリスト受難劇の記録。自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本作でオリヴェイラが発見したのは「上演=表象の映画」という極めて豊かな鉱脈だった。一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起する謎と緊張。前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。

アブラハム渓谷

アブラハム渓谷 
Vale Abraão

1993年/188分/カラー/35ミリフィルム
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
原作:アグスティナ・ベッサ=ルイス
撮影:マリオ・バローゾ
出演:レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ

フローベールの小説「ボヴァリー夫人」をもとにポルトガル文学の巨匠アグスティナ・ベッサ=ルイスが原作を執筆。彫琢された言葉の響きとオリヴェイラの完璧な映像が火花を散らす“文芸映画”の最高峰。監督が追求し続ける女性美が、主人公エマを演じるレオノール・シルヴェイラと洗濯女を演じるイザベル・ルトの両極に具現する。【フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター】

階段通りの人々

階段通りの人々
A Caixa

1994年/96分/カラー/35ミリフィルム
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフェル

リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それは貧しくて周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した真の人間性のポートレイトだ。これは1920年代の映画、初期映画への回帰を示す映画なのだ」(オリヴェイラ)。【フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター】

トラス・オス・モンテス

トラス・オス・モンテス
Trás-os-Montes

1976年/111分/カラー/35ミリフィルム
監督・録音・編集:アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ
撮影:アカシオ・ド・アルメイダ
出演:トラス・オス・モンテスの住民たち

ポルトガル現代詩を代表するアントニオ・レイスが、マルガリーダ・コルデイロと共に作った初長篇。川遊びなどにうち興じる子供たちの姿を中心に、遠い山奥のきらきらと輝く宝石のような日々を夢幻的な時間構成により浮かび上がらせる。公開当時、フランスの批評家たちを驚嘆させ、後にペドロ・コスタにも影響を与えたという伝説的作品。

黄色い家の記憶

黄色い家の記憶
Recordações da Casa Amarela

1989年/122分/カラー/35ミリフィルム
監督・脚本:ジョアン・セーザル・モンテイロ
撮影:ジョゼ・アントニオ・ルレイロ
出演:ジョアン・セーザル・モンテイロ、マヌエラ・ド・フレイタス、ルイ・フルタード

強烈な存在感で見る者を魅了してやまない痩身の中年男デウス(神)をモンテイロが愉快に自作自演した「ジョアン・ド・デウス」シリーズの第一作。姦淫、盗みなどの悪行に身を任せる天衣無縫のデウスの足跡が、そのままモラリスト的人間考察へと転じる。サッシャ・ギトリやバスター・キートンと比肩する偉大な個性を世界に印象づけた傑作。

トランス

トランス
Trance

2006年/126分/カラー/35ミリフィルム
監督・脚本:テレーザ・ヴィラヴェルデ
撮影:ジョアン・リベイロ
出演:アナ・モレイラ、ヴィクトル・ラコフ、ロビンソン・ステヴニン

サンクトペテルブルクで暮らしていたソーニャは、より良い暮らしを求めて西ヨーロッパへ向かうが、旅の途中で過酷な現実に直面する。『オス・ムタンテス』でポルトガル映画の新時代の到来を告げたテレーザ・ヴィラヴェルデの野心作。ミゲル・ゴメスの新作『熱波』でヒロインの若き日を演じたアナ・モレイラが主演。

自分に見合った顔

自分に見合った顔
A Cara que Mereces

2004年/108分/カラー/ブルーレイ
監督:ミゲル・ゴメス
脚本:ミゲル・ゴメス、マヌエル・モゾス、テルモ・シューロ
撮影:ルイ・ポサス
出演:ジョゼ・アイロザ 、グラシンダ・ナヴェ、カルロト・コッタ

30 歳までは神から授かった顔、その後は自分に見合った顔になる。グリム童話「白雪姫」をモチーフに、30歳の誕生日を迎えたフランシスコの身にふりかかる奇想天外な出来事を、大胆な二部構成で描き出す。最新作『熱波』によって、一躍世界の注目の的となったミゲル・ゴメスの記念すべき長編デビュー作。

私たちの好きな八月

私たちの好きな八月
Aquele Querido Mês de Agosto

2008年/149分/カラー/35ミリフィルム
監督:ミゲル・ゴメス
脚本:ミゲル・ゴメス、マリアナ・リカルド、テルモ・シューロ
撮影:ルイ・ポサス
出演:ソニア・バンデイラ、 ファビオ・オリヴェイラ、ジョアキン・カルヴァリョ

ミゲル・ゴメスの長篇第二作。ヴァカンス期のポルトガル山間部を舞台に、地元の村人、映画製作チーム、音楽フェスティバルの様子をドキュメンタリー的に描く前半部が、やがていつの間にか、途切れることなく、美しい少年と少女のメロドラマを綴る後半部へと移行する。真夏の夜の夢のような脱ジャンル的秀作。