映画のメティエ
空想の映画史をスクリーンに戻す試み
プログラム構成=筒井武文
2025年6月30日(月)-7月5日(土)(6日間)
会場:アテネ・フランセ文化センター
映画監督筒井武文は長年にわたり映画批評を執筆してきた。劇映画、ドキュメンタリー映画、実験映画などの多様なジャンルに及び、古典から現代にいたる映画表現の広大な領域を縦走・横断するその著述は、日本の映画批評において独自の地位を築いてきた。このたび、厖大な原稿から精選された映画論が、『映画のメティエ 欧米篇』『映画のメティエ 日本篇』(森話社)の2冊にまとまって刊行された。本企画は、その出版を記念し、筒井監督のセレクションによるプログラム構成で実施するものである。
『映画のメティエ』二部作(欧米篇・日本篇)の出版を記念して上映会を開いていただけることになった。もちろん、この二冊で扱った映画をすべて上映することなど不可能である。それで、セレクトした基準は、三点ある。一点は、現在上映することが困難な作品であること。たとえば、チャーリー・バワーズ。この天才の作品は、神戸映画資料館によって、3年前に本格的な紹介がおこなわれたが、すでに配給権が切れていて、今回特別に上映権をとったものである。とりわけ、「セレクション 2」の三作品は東京での初公開となる。二点は、私の映画体験史として、特別の思いがあるもの。ハリー・ラングドン『岡惚れハリー』、アラン・ドワン『当たり狂言』は、1920年代のサイレント作品だが、欧米篇序文で書いたように、映画史の奥深さを知らしめてくれた。三点は、50年代映画研究会の協力を得て、アテネ・フランセ文化センターで90年代に上映したもの。瀬川昌治、大和屋竺、それにスタンバーグ『アナタハン』がそうだが、根岸明美さんのトークを同じスクリーンに投影することで、33年の隔たりを超えた熱気を再現できるか。以上、私の映画体験に欠かせない作品を見ていただいた上で、観ることから撮ることに立場を変えた時代を語りたい。その時代で観れる・観せられる作品と、自分で探し回ることで観た作品の間に、自己の立脚点があると思うからである。
——— 筒井武文
■上映スケジュール
◉チケットは1回目上映開始の30分前から、当日上映分を販売します。
◉各日最初のプログラム冒頭で筒井武文監督による作品紹介(約5分)があります。
6月30日(月)
暴走する機械、あるいは映画vs.アニメーション
16:00 | チャーリー・バワーズ セレクション 1 『とても短い昼食』『オトボケ脱走兵』『たまご割れすぎ問題』『全自動レストラン』『ほらふき倶楽部』『怪人現る』 [計101分] +トーク1 筒井武文[30分] |
19:00 | チャーリー・バワーズ セレクション 2 『生命の機械』『バナナだらけ』『イッツ・ア・バード』 [計61分] |
7月1日(火)
サイレント映画の極北、なぜ私は金縛りにあってしまったのか
15:10 | 『当たり狂言』 [84分] |
17:00 | 『岡惚れハリー』[60分] +トーク2 筒井武文[30分] |
19:00 | 『当たり狂言』 [84分] |
7月2日(水)
「笑」の共振、はたして瀬川はルビッチを見たか
15:00 | 『乾杯!ごきげん野郎』[91分] |
17:00 | 『牡蠣の王女』[58分] +トーク3 筒井武文[30分] |
19:00 | 『乾杯!ごきげん野郎』[91分] |
7月3日(木)
にっぽん不条理対決、あるいは私のふたりの師匠
14:30 | 『満願旅行』[94分] |
16:30 | 『荒野のダッチワイフ』[85分] +トーク4 筒井武文[30分] |
19:00 | 『満願旅行』[94分] |
7月4日(金)
アナタハン島の女王は誰か、あるいは映画の創造力
15:30 | 『アナタハン島の眞相はこれだ!!』[53分] +トーク5 筒井武文[30分] |
17:30 | 『アナタハン』[90分] アーカイブ映像「主演女優 根岸明美『アナタハン』を語る」[105分] |
7月5日(土)
1980年代に映画を撮り始めること、もしくは時代から迷うこと
13:20 | 『レディメイド』『はなされるGANG』[計145分] |
16:20 | 『学習図鑑』『アリス イン ワンダーランド』[計64分] |
18:00 | 対談 諏訪敦彦(映画監督)×筒井武文[60分] 『ゆめこの大冒険』(染色サウンド版)[67分] |
■監督情報
筒井武文(つつい・たけふみ)
1957年三重県生まれ。東京造形大学在学中に習作『6と9』(1981)を手掛けた後、長篇第一作『レディメイド』(1982)を発表。フリーの助監督、フィルム編集者を経て、独立後、自主制作映画『ゆめこの大冒険』(1986)を3年がかりで完成させ劇場公開。劇団「遊◉機械/全自動シアター」の世界を映像化した『学習図鑑』(1987)や3D作品『アリス イン ワンダーランド』(1988)を監督するとともに、TV、記録映画、企業CMなど幅広く演出。『おかえり』(1996、篠崎誠監督)では製作と編集を、『どこまでもいこう』(1999、塩田明彦監督)では編集を担当した。また、イメージフォーラム、映画美学校、東京藝術大学大学院映像研究科などで後進の育成につとめるかたわら、映画批評や、海外含む映画人へのインタビューも多数手がけてきた。今世紀に入ってからの監督作(長篇)に、『オーバードライヴ』(2004)、『孤独な惑星』(2010)、『ホテル・ニュームーン』(2019、日本・イラン合作)の劇映画にならんで、『バッハの肖像 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2009より』(2010)、『映像の発見=松本俊夫の時代』(2015)のドキュメンタリー映画がある。2025年には、10年前に監督した劇映画『自由なファンシィ』が一般公開されたのにあわせて、初の著書『映画のメティエ 欧米篇』(森話社)と編著『声(ポリフォニー)の映画史 東京藝術大学大学院映像研究科講義録』(東京藝術大学出版会)が上梓され、『映画のメティエ 日本篇』(森話社)もつづいて刊行される。
■書籍情報
映画のメティエ 欧米篇 2025年3月刊
映画のメティエ 日本篇 2025年7月刊
【会場にて先行販売!】
筒井武文 著|森話社|欧米篇3,800円+税|
日本篇3,600円+税
映画の誕生から映画史の発展を、あくなき探求と取材を通して縦横無尽に展開してみせる、おどろくべき映画論集だ。とびぬけた映画狂であり映画についてはもちろん知らざることなしという博学多才の映画教師であり、映画作家としての地道な活躍も注目される筒井武文氏ならではの執拗なまでに熱っぽく狂おしい多彩な映画論が躍動する。大いに学びつつ大いに刺激されること請合いの画期的な映画授業である。——— 山田宏一
古典から現代へ。その緩やかな展開は、日本映画史と括ることが可能だろうが、驚くべきは、個々の作品に注がれる筒井武文さんの繊細きわまりない眼差しである。そこでは、すでに見知っているはずの映画が、新たな光を放って立ち上がってくるのだ。ただ、作品の選択には筒井さん独特の強弱がある。それが従来の日本映画史の盲点を突く。本書には、そんなスリリングな展開が随所にある。心して読むべし!——— 上野昻志