映画のメティエ 空想の映画史をスクリーンに戻す試み 上映作品解説
◉作品解説は、筒井監督作品以外すべて、筒井武文執筆

6月30日(月)
暴走する機械、あるいは映画vs.アニメーション

チャーリー・バワーズ セレクション 1(計101分)

とても短い昼食

とても短い昼食
The Extra-Quick Lunch

1918年/6分/サイレント/DCP
監督:チャーリー・バワーズ
ブッド・フィッシャー




オトボケ脱走兵

オトボケ脱走兵
A.W.O.L. or All Wrong Old Laddiebuck

1918年/6分/サイレント/DCP
監督:チャーリー・バワーズ




たまご割れすぎ問題

たまご割れすぎ問題
Egged On

1926年/23分/サイレント/DCP
監督:チャーリー・バワーズ
   ハロルド・L・ミュラー
   テッド・シアーズ
出演:チャーリー・バワーズ


全自動レストラン

全自動レストラン
He Done His Best

1926年/23分/サイレント/DCP
監督:チャーリー・バワーズ
   ハロルド・L・ミュラー
出演:チャーリー・バワーズ


ほらふき倶楽部

ほらふき倶楽部
Now You Tell One

1926年/21分/サイレント/DCP
監督:チャーリー・バワーズ
   ハロルド・L・ミュラー
出演:チャーリー・バワーズ


怪人現る

怪人現る
There It Is

1928年/22分/サイレント/DCP
監督:チャーリー・バワーズ
   ハロルド・L・ミュラー
出演:チャーリー・バワーズ


チャーリー・バワーズ セレクション 2(計61分)東京初上映

生命の機械

生命の機械
A Wild Roomer

1927年/24分/サイレント/Blu-ray
監督:チャーリー・バワーズ
   ハロルド・L・ミュラー
出演:チャーリー・バワーズ



バナナだらけ

バナナだらけ
Many a Slip

1927年/23分/サイレント/Blu-ray
監督:チャーリー・バワーズ
   ハロルド・L・ミュラー
出演:チャーリー・バワーズ
   コリーヌ・パワーズ
   リッカ・アレン


イッツ・ア・バード

イッツ・ア・バード
It’s a Bird

1930年/14分/トーキー/Blu-ray
監督:ハロルド・L・ミュラー
出演:チャーリー・バワーズ

映画史から忘れられ、古物商の売ったフィルムが60年代に再発見されたことで甦ったチャーリー・バワーズ! セレクション1では、バワーズの手描きアニメーションから、実写のコメディまで。キートンを模倣したキャラクターなのだが、大半の作品で発明家を演じる。最初に発明するのは、「割れない卵」をつくり出す奇想天外なマシンだが、人間の思惑を超えて暴走していく。実写の機械の作動に、コマ撮りアニメーション技法(バワーズ・プロセス)が取り入れられ、究極の機械文明論が展開されていく。セレクション2では、バワーズのマシンの最高傑作『生命の機械』と『バナナだらけ』が登場する。前者は文字通り生命を生み出す。後者は滑らないバナナの皮の発明に取り組む。その実験過程が細かく描かれるのが貴重。『イッツ・ア・バード』は、トーキー第一作であり、バワーズ最後の出演作。金属を食べる鳥を探し、世界を旅する。

7月1日(火)
サイレント映画の極北、なぜ私は金縛りにあってしまったのか

当たり狂言

当たり狂言
Stage Struck

1925年/84分/サイレント/デジタル
監督:アラン・ドワン
脚本:フランク・R・アダムス
   フォレスト・ハルセイ
   シルヴィア・ラヴァレ
出演:グロリア・スワンソン ローレンス・グレイ
   ゲルトルード・アストール

絢爛たる衣裳で階段を降りてくるサロメ、驚くことに二色式テクニカラーで撮られている。それは川辺の料理屋でウエイトレスをしている女優志望の娘の夢だった。モノクロに戻った画面は、娘を演じるグロリア・スワンソンの潑剌とした魅惑を描き出す。そこに、蒸気船が停泊し、恋敵となる女優が登場して…。アラン・ドワンの大傑作。

岡惚れハリー

岡惚れハリー
Three’s A Crowd

1927年/60分/サイレント/デジタル
監督:ハリー・ラングドン
脚本:ロバート・エディ
   ハリー・ラングドン
   ジェームス・ラングドン
出演:ハリー・ラングドン グラディーズ・マッコーネル
   コルネリウス・キーフ

フランク・キャプラと組んでいたハリー・ラングドンが自ら監督を兼ねて主演したコメディだが、これほど悲しいコメディが存在しただろうか。雪のなか行き倒れた若い妊婦を助けたハリーは、献身的に世話をする。そこに、妻を追って夫が現れ、彼女をめぐってリング上でのボクシング対決になる。圧倒的な悪夢的表現に驚嘆させられる。

7月2日(水)
「笑」の共振、はたして瀬川はルビッチを見たか

牡蠣の王女

牡蠣の王女
Die Austernprinzessin
The Oyster Princess

1919年/58分/サイレント/デジタル
監督:エルンスト・ルビッチ
脚本:エルンスト・ルビッチ
   ハンス・クレリ
撮影:テオドール・スパルクール
出演:オシー・オスヴァルダ ハリー・リートケ

アメリカ時代には欧州の架空の国を舞台にすることが多かったルビッチだが、ドイツ時代の本作は逆にアメリカの大富豪一族を容赦無く描いてみせる。牡蠣の王の口述筆記のシーンでは、取り巻く葉巻係、コーヒー係、ナプキン係、ブラシ係が次々に口や髪の世話をしていく。その娘の政略結婚の話だが、風刺を超えた面白さが渦巻く。

乾杯!ごきげん野郎
©︎東映

乾杯!ごきげん野郎

1961年/91分/35mm
監督:瀬川昌治
脚本:井出雅人
撮影:田中義信
出演:梅宮辰夫 今井俊二 南広
   三田佳子 榎本健一

プロを夢見て、九州から上京する梅宮辰夫以下コーラスグループ四人組。売り込み作戦が開始される。ターゲットはエノケン演じる大物プロモーター。祝賀会場から拉致し接待するシーンの可笑しさたるや。瀬川昌治がチャップリンやルビッチから受け継いだ映画魂が、複雑な生合成を駆使した四人組が増殖するミュージカル場面に結実する。

7月3日(木)
にっぽん不条理対決、あるいは私のふたりの師匠

荒野のダッチワイフ
©︎国映株式会社

荒野のダッチワイフ

1967年/85分/デジタル
監督・脚本:大和屋竺
音楽:山下洋輔
出演:辰巳典子 港雄一 麿赤児
   大久保鷹 山本昌平

大和屋竺が企むのは、時間の消滅である。殺し屋とは、人の時間を止めるのが仕事だ。抱いていた女が人形に変容する。対決の時間が引き延ばされ、不意に襲ってくる。荒野と都会の一室が通底し、空間の距離が拡大したかと思えば、時間は回帰を繰り返す。大和屋が残した4本の劇映画はどれも必見だが、やりたいことをやり切った本作をまず!

満願旅行
©︎1970松竹株式会社

満願旅行

1970年/94分/35mm
監督:瀬川昌治
原作・脚本:舟橋和郎
撮影:丸山恵司
出演:フランキー堺 団令子 香山美子
   森田健作 ピンキーとキラーズ

日本のプログラム・ピクチャーでこれほど過激な世界を描いた例は他にない。フランキー堺演じる車掌や駅員は、なぜか女性に誘惑されまくる。それが夢と分かった瞬間、映画館は爆笑の渦となるのだが、それは本当に夢なのか。コメディが一転して、恐怖映画となる。シリーズ11作中、『快感旅行』と共に究極の悪夢を体験できる。

7月4日(金)
アナタハン島の女王は誰か、あるいは映画の創造力

アナタハン島の眞相はこれだ!!

アナタハン島の眞相はこれだ!!

1953年/53分/35mm
監督:吉田とし子
出演:比嘉和子

スタンバーグの『アナタハン』の公開の直前に、アナタハン島で32人の男性と日本の敗戦を知らずに過ごした現実の「アナタハン島の女王蜂」比嘉和子を出演させてつくった際物映画。製作の吉田とし子が監督でクレジットされているが、実際の監督は別にいるとも。ともあれ、1953年の公開順に、アナタハン事件を見ていただく。

アナタハン

アナタハン
Anatahan

1953年/90分/35mm
監督・撮影:
   ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
脚本:
   ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
   浅野辰雄
スクリプター、キャメラオペレーター:岡崎宏三
音楽:伊福部昭
出演:根岸明美 中山昭二 菅沼正 沢村紀三郎 近藤宏
◉国立映画アーカイブ所蔵

スタンバーグの最後の作品は日本映画である。それも、彼自身の映画人生を締め括る孤高の美を放つ。南海の孤島で男たちに囲まれて過ごす女王蜂ケイコに、日劇ダンシングチームで見つけた根岸明美を抜擢。スタンバーグは、拳銃を持つ王の出現によるケイコと男の関係の変化を見つめる。島に舞い落ちる紙の爆弾に、スタンバーグ映画の刻印が押される。

アナタハン

アーカイブ映像 主演女優 根岸明美『アナタハン』を語る

1992年/105分
聞き手:筒井武文

1992年に当センターでの『アナタハン』上映会ゲストで来館された根岸明美さんのトーク映像。根岸さんは公開から39年後のこの会ではじめて完成作品をご覧になった。当日のプリントがアメリカ公開版だったので、吹き替えのヌード・シーンに驚かれ、率直な物言いが観客の爆笑を誘う。スタンバーグとの交友が語られる貴重な記録となった。

7月5日(土)
1980年代に映画を撮り始めること、もしくは時代から迷うこと

レディメイド

レディメイド

1982年/60分/16mm
監督:筒井武文
脚本・撮影:高瀬伸一
出演:小野寺里美 西野公平 犬童一心
   鈴野志紋 鈴野麻衣 筒井紀美子

遊園地という出来合いの迷路をさまよう三組のカップルと一組の子供。彼らの 錯綜した行き違いは、オーソン・ウェルズの記憶を留める「鏡の間」で頂点に達するが、巧妙な「つなぎ間違い」によりアラン・レネの時空へと漂い、いくつかの平手打ちを経て、魔法のようにハッピーエンドへと解きほぐされる。長篇第一作。

はなされるGANG

はなされるGANG

1985年/85分/DCP
監督・撮影:諏訪敦彦
出演:加村隆幸 伊藤理恵

東京造形大学の3年次の課題として、ゴダールの『気狂いピエロ』の影響下に撮られた8ミリ日記映画。実際に、1日に1日分のシーンを撮っていった。実際の恋人だった二人を使い、逃走劇としてのフィクションを構築と同時に解体していく。浅草花やしきの観覧車の場面をはじめ、撮影を兼ねる諏訪の映画的感性が横溢した傑作。

学習図鑑

学習図鑑

1987年/50分/16mm
監督:筒井武文
撮影:宮武嘉昭
音楽:太田恵資
出演:高泉淳子 白井晃 篠崎はるく
   遊◉機械/全自動シアター

即興的な集団創作で知られる劇団、遊◉機械/全自動シアターとともに、映画における演劇性とは何かを追求した実験的試みにして娯楽作。マルクス兄弟的ナンセンスが炸裂する秋刀魚の手術シーンや、たった一枚のスカーフによって一組のカップルの数十年間を表現してしまう叙情的なメキシコ料理屋のシーンが圧巻の革新的傑作。

アリス イン ワンダーランド

アリス イン ワンダーランド

1988年/14分/35mm/2D上映
監督・脚本:筒井武文
撮影:宮武嘉昭
音楽:竹間淳
出演:ローレン・ディーン マリアナ・マコルスキー
   サム・サンダー すずきやすし

日本から一歩も出ずにルイス・キャロルの作品世界を忠実に再現した3D映画(今回は2Dでの上映)。アリスが裁判にかけられる場面で画面を横切るトランプの乱舞はオプチカル処理され(CGではない)、筒井の狂気の映画愛をうかがわせる。映画史上、数ある「アリス」映画の中でも演出の厳格さではトップクラス。映画のアルチザンとしての手腕が光る幻の逸品。

ゆめこの大冒険

ゆめこの大冒険(染色サウンド版)

1986/2011年/67分/16mm
監督・脚本:筒井武文
撮影:宮武嘉昭 熊谷朋之
出演:かとうゆめこ すずきやすし
   宮原清 にわ望 高橋孝英
   沖山美紀 チーコ

筒井流「ゲームの規則」。怪盗ゆめことマッド・サイエンティストが乗る気球は、メリエス的な世界一周の旅へと出発し、二人の熱いキスで北極熊を驚かせ、巴里の夜景へと私たちを誘う。さらに偽りの遠近法の中の追跡劇は、映画が作り物の真実であることを指し示す。無声映画への深い愛と該博な知識に裏づけされた初期代表作。